情弱整形外科医の対戦日記

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整形外科医がバーンアウトしたお話

個人を特定できないように情報をボカしているので悪しからず。

事の始まりは一件の救急外来。

救急外来からPHSに着信があり、話を聞くと当院かかりつけの患者が緊急性のない症状で連絡なしに受診してきたとのこと。

他の医師は手術中であり私が対応することとなった。

症状から推察される緊急性の高い疾患を否定するための検査を行い、最も可能性の高い診断及び次点でこの場で見た限りでははっきりした所見はないが否定しきれない診断を告げ、いずれにせよ対応は変わらないことを説明し、それらに共通した処置、処方を行おうとした。

しかし本人が希望されず、症状が続く場合には再度受診するよう指導し何もせずに帰宅となった。

 

その後しばらく何もなく経過していたが、2ヶ月ほと後のある日その患者が外来にやってきた。

症状が続くとのこと。

もう一度じっくり画像を見返すと、次点で挙げた方の疾患の所見に気がついた。

改めて説明すると、労災を使おうとしており、休業補償の申請をしたいとのこと。

勤務中の発症かもしれないが、労務内容との因果関係に乏しく、そもそも休業するような疾患ではないのでそれはできない旨を説明し、その日は帰宅していただいた。

 

すると後日、病院にクレームの電話が入った。

詳細を記載するのは避けるが、要は私の医療ミスであるのに補償されないとはどういうことか、精神的苦痛を受けたので誠意を見せろ、ということであった。

前述したように、確かに救急外来での診察時に確定診断には至らなかった。

しかし医療従事者ならばご存知の通り、救急外来とは確定診断を行う場ではない。

あくまで救急の場であり、そもそもその疾患であった場合にも備え適切な対応も提案しているのだ。

なんら落ち度はないのだが、このようなクレームを受けた。

 

上司に事情を説明し、やはり私の対応には問題がないと判断されたのだが、患者の反応はこれにとどまらない。

病院にやってきて正面玄関口で医療ミスだのなんだの喚き散らす始末。

 

それでも現場のコメディカル、整形外科の上司が味方してくれており粛々と対応していた。

そうしていればこんな異常者の対応は何の問題もなく終わると信じて。

 

だが、異常行動が続き院長まで報告が行くと状況が変化した。

なんと「見落としたのは事実だから賠償しよう」という意見だったのだ。

 

足元が崩れ落ちるような感覚だった。

自分の今までの経験・知識を否定された。自分が病院に迷惑をかけてしまった。異常者がゴネているだけなのに正しいはずの行いをした側が屈してしまうのか。

様々な思いが去来し、心に影を落とした。

 

この瞬間。ここから徐々に心のバランスを崩していったのだと思う。

 

結果的に私の意見が取り入れられることとなったが、何かがおかしい。

やる気が起きない。

特に書類仕事ができない。

 

学会の準備もしなければならない。

だがダメだ。

 

そんな期間が2-3週間続いた。

 

その後なんとか復調し、溜め込んだ書類を処理し、学会の準備も追い込みをかける。

慣れないデータの入力、集計に四苦八苦しながらも何とか形にする。

 

そして。

学会のスライドを提出し終わった直後の12月初め。

長時間手術を終え、整形外科の病棟に上がった。

師長と若手の看護師が話している。

何やら不穏な空気。

私を見つけると

「ちょうど良かった。お願いがあります。」

 

話を聞くと若手の看護師がアクシデント(医療用語ではミスにより患者に何らかの治療が必要となることを言う)を起こしたため、その謝罪に同席し、どのような合併症が起こりうるかの説明をして欲しいとのことであった。

 

気は進まなかったが、他に整形外科医師は院内にはおらず、確かに必要なことであると判断し、説明及び謝罪に行くこととした。

 

患者の部屋に行き、まずは謝罪。

この後主治医に、翌日医療安全委員に報告することを説明。

次いで発生し得る合併症について説明し、安心させるように、それは起こったとしても一時的であるため過度に心配する必要はないと伝えた。

 

繰り返すが、私はこの件になんら関わっていない。

ただただ善意で、医師としての義務感で、患者に安心してもらうためにこの役を買って出たのだ。

 

それに対する患者の反応。

これも詳細は避けるが、こちらの話を理解しようとしないだけならまだしも、何故か私に全責任があるかのように罵詈雑言を浴びせてくるのだ。

 

罵詈雑言に耐え、師長の協力を得ながら何とか落ち着かせるが、医師から家族への連絡は絶対しろと。

 

看護部の問題であり私は補助的な立場なのだが、それについては看護師からも私から電話するよう頼まれる。

 

正直意味がわからないが、私から電話することになった。

 

すると案の定私に対する罵詈雑言。

本人、家族合わせて2時間近い罵詈雑言。

 

何なんだ?

私が何をした?

多忙な業務の合間を縫ってボロボロになりながら学会準備をし、それでも患者のために何とかクオリティを落とさないよう張りつめて。

ずっと会えてなかった娘たちとやっと遊ぶ時間ができたと思ったのに、それを犠牲にして捻り出した善意を罵詈雑言で返されて。

 

何のためにこんな頑張ってんだ?

ふざけるな。

なんでこんな奴らのために自分を犠牲にする必要がある?

馬鹿らしい。

 

そんな感情に支配される。

 

感情が昂っていたがそれ以上に疲れた。

何とか眠る。

 

翌日。

おかしい。

全然集中できない。

イライラと無気力の繰り返し。

なんだこれは?

看護師に話しかけられても内容が入ってこない。

お前らのせいでこんな思いしてるのに何なんだとしか思えない。

うるさいうるさい話しかけるな。

 

さらに次の日。

朝。

いつも通りに目を覚ます。

何となくボーッとしている。

30分経って、1時間が経つ。

妻に「大丈夫?体調悪い?」

と言われてノロノロと準備を始める。

もう朝のカンファレンスの時間だ。

遅れることを連絡しなければ。

 

車で職場に向かう。

近くまで来たところで何となく嫌になって通りすぎる。

それを何回も繰り返す。

もう10時だ。

行かなければ。

今日は手術の助手に入らないと。

 

病院に着く。

また、ボーッとする。

身体を動かせない。

 

電話がかかってくる。

上司がとりあえず話したいと。

相談し、しばらく休業することを勧められた。

自分自身、このときはもう働くことなんて不可能だと感じていたため、提案を受け入れた。

 

以上が今回の経緯。

特に私にとって影響の大きかった2つの出来事。

これら2つに加えて細かいストレスが重なった。

 

 

今回ブログにした理由は自分自身で整理したかったというのが1つ。

他には私と同じようか体験をする人を少しでも減らしたかったのが1つ。

医療従事者に対してはこういう人たちがいることを実体験として知ってもらい心の準備をしてもらいたくて。

そうでない人たちには少しでもこういう行為をする人が減ってくれるように。

 

コロナに直接関係ないところでバーンアウトした、いち整形外科医からのお願いです。